本書は、将来皆さんが、医学誌・ウェブサイトでの医学情報の収集、論文の執筆、国際会議での発表など、発展的な医療活動を行うための土台を形成することを目指しています。本書の素材である『The New England Jornal of Medicine』のCase Recordsは、症例中心の実践的な教育として1900年に提案され、これまで100年以上の間に5,000以上の症例が紹介されています。学生のうちからこうした世界のトップレベルの医学英文に触れ、そのレベルを目標に学習計画を立てることが非常に重要であることは言うまでもありません。

 さて、本書を書くきっかけとなったのは、数名の学生有志と始めた同誌のCase Records 抄読会です。いざ始めてみると毎回発見と感動の連続で、系統的な講義では決して得られない興奮を知った学生たちは、症例を重ねるごとにグングン伸びていきました。それが嬉しくてまた次の症例を読むということが、既に15年続いています。本書を通じて、医学英語を学ぶ多くの人たちにこの感動を伝えられればと願っています。


 医学英語は受験英語の延長線上にあるとは言えません。むしろ第三外国語として、それなりの勉強をする必要があるほどのものです。ラテン語やギリシャ語にも親しみ、医学独特の言い回しを整理して頭に入れておかなければなりません。文章の流れや行間を読む力も必要です。得られた情報を越えて想像力を働かせ、自己の経験と照らし合わせて考える作業なしには、見えてこないことがあるのです。最初は無秩序に思えた離れ離れの点が次第につながって診断にいたる過程は、まるで星座を見つけたときのような喜びが感じられることでしょう。


 本書を読み終えたときに、医学英語の世界に視界が大きく開けて、世界一高いタワービルに上って周囲を見渡すような爽快さを少しでも感じていただればと思います。

 アルクの「医学英語シリーズ」第1弾ということもあり、コテコテの文系の私にとっては、「医学英語」ってどんなもの?というところからのスタートでした。執筆者である高橋先生とは企画段階から何度もお話をして、この本の元にもなった症例集の抄読会も見せていただきました。また、医学部の学生さん、医学部の英語の先生、そしてもちろんお医者さまなど、いろいろな方のお話を聞いて回りました。

 本の内容が(私にとっては)難しいだけでなく、先生の研究室が京都、編集部が東京と地理的に離れていたこともあり、制作も一筋縄ではいきませんでした。イラストひとつ発注するにしても、私が内容をある程度理解しなければなりません。先生は、そんな私に付き合って、一つひとつのことを根気強く、分かるまで説明してくださいました。中には、「これが分かったら医学部の院試を受けられるよ」というようなものまで......(さすがにそれは無理です、先生)。


 そんな先生の期待にこたえるべく、夏には京都に約2週間滞在して先生の研究室に通いました。途中で一度東京に帰ったものの、それ以外は毎日研究室にこもり、先生と話し合い、必要な資料を整理し、書いていただいた原稿をその場でまとめていきました。ひたすらホテルと大学をバスで往復する毎日でしたが、とても実のある2週間で、私も教材に対する理解をさらに深めることができたと思います。


 そんなふうに手塩にかけて作り上げた1冊ですので、出来上がったときの感慨もひとしお。英語だけでなく、医学的な内容についての解説も豊富ですので、医学部の学生さんだけでなく、研修医や英語が少し苦手だというお医者さまにもぜひ使っていただきたいと思います。

閉じる